熟成させたベニオウの実のお酒の中に髪の毛に効く成分が入ってたもんだから、ロルフさんや僕は大喜び。
でもね、それを見たお爺さん司祭様はロルフさんにこう言ったんだよ。
「ヴァルトよ。喜んでいるところに水をかけるようですまぬが、このベニオウの酒からどうやって成分を含んだ皮を取り出すつもりなのだ?」
そう言えばベニオウの実の皮とセリアナの実の油を使ったお薬って、皮を乾燥させて粉にしたのを温めた油に混ぜて作るんだっけ。
でも目の前にあるお酒は絞ってないからいっぱい皮が浮いてるけど、ここから皮だけ取り出すのはすっごく大変そうなんだよね。
だからお爺さん司祭様のお話を聞いたロルフさんは、それに気が付いてしょぼんってしちゃったんだ。
「今のままではどうにもならん。とりあえず酒をしぼってみる事にしよう」
さっき作ったお酒って、まだ実や皮が混ざったまんまでしょ?
だからそのまんまだと川を取るのは無理だからって、布を使ってお酒をしぼる事にしたんだ。
「伯爵。布はこれでいいですか?」
「うむ。ではそれを、そこにある大きいボウルにかけてもらえるかな。うむそうじゃ。ではこの酒を入れてと」
バーリマンさんがボウルに入れてくれた布の上に、ロルフさんはさっき作ったお酒を実や皮ごと入れてったんだよ。
でね、全部入れ終わると今度はその布のふちっこを持ちながら少しずつ持ち上げて、お酒を越してったんだ。
「ある程度落ちたな。ではこれを搾るとするかのぉ」
ロルフさんはそう言うと、お酒が落ち切った布をまた別のボウルの中へ。
そして今度は布をねじりながら、残ったお酒を搾ってったんだ。
「ロルフさん。何で違う入れもんに絞るの?」
「ああそれはな、自然に落ちたものと違って、搾った物には雑味が入るからじゃよ」
前にアマンダさんと一緒に作った時はね、最初っからぎゅっぎゅって搾ったんだ。
でもね、ロルフさんはそれだとおいしくないのも一緒に絞れちゃうから、最後のしぼるとこは別の入れもんに入れたんだってさ。
「森の奥から運んできたベニオウの実で作る酒は極上じゃからのぉ。実験のために作ったとはいえ、どうすればうまくなるのか解っておるのじゃからやらぬ理由はあるまいて」
ロルフさんはそう言うとね、最初はゆっくりと、でも最後の方は力いっぱいお酒を搾ってったんだよ。
でね、もう搾れないってとこまでぎゅっぎゅってした後、手に持ってた布をボウルの横にある木のお皿の上にのっけたんだ。
「ふう。わしの力ではこれが限界じゃな。どれ、残ったものはどうなっておるかな」
ロルフさんがそう言って布を開いてったもんだから、僕たちはみんなでそれを覗き込んだんだよね。
でもそれを見たロルフさんやバーリマンさんは、ちょっとしょぼんってしちゃったんだ。
何でかって言うとね、中から出て来たのは皮がすっごくちっちゃくなってて、他の実と完全に混じっちゃってたからなんだよ。
「伯爵。これでは……」
「うむ。流石にここまで細かくなってしまっては、皮だけを取り出すのは不可能じゃな」
流石にこんなになっちゃってたら、中から皮だけを取り出すのは無理でしょ?
だからロルフさんは、このやり方じゃダメだねって。
でもね、
「伯爵。この実と皮の混じった物にも、髪の毛に効く成分は入っているのですわよね。ならばこれを粉にしてセリアナの油に混ぜてみては?」
バーリマンさんが、これを粉にしたらどうかなぁ? って言うんだよね。
だから僕、この搾った後の奴にドライをかけて、ロルフさんに粉にしてもらったんだ。
それでね、バーリマンさんが魔力を注いだセリアナの油を温めながら、その粉を混ぜてったんだ。
「だめじゃな。油に対して皮の量が少なすぎて肌用ポーションにすらなっておらん」
「やはりだめでしたか」
ロルフさんもバーリマンさんも、ド王やらこれは最初っから成功するって思ってなかったみたい。
だから二人とも、今度はしょんぼりしないですぐにどうしたらいいかなぁ? ってお話を始めたんだよ。
でね、そこで出て来た意見が、皮をむいてから実をつぶして、その中に向いた皮を入れてお酒にするって方法。
これだったら皮はそのまんま残ってるから、熟成させた後に取り出すのも簡単だもん。
だから今度は絶対成功するねってみんなでお話しながら、もういっぺんお酒にして熟成させたんだ。
でも、
「ダメじゃ。皮の中の成分が、うまく変質しておらぬ」
「どうやらアルコールに浸っている皮の断面にある成分だけが変質するようですわね」
皮ごと搾った時と違って、今度はちゃんと髪の毛にいい成分ができてなかったみたいなんだ。
期待してただけに、ロルフさんもバーリマンさんもこれにはしょんぼりを通り越してがっくり。
「はくしゃく。これは搾りかすから丁寧に皮を分けるしか方法が無さそうですわね」
「うむ。じゃがな、ギルマスよ。それでは手間がかかりすぎて、いつ出来上がるか解らぬぞ」
すっごく大変そうだけど、搾った後の奴から皮だけを取り出さないと、髪の毛用のお薬は作れないかなぁってお話を始めちゃったんだ。
でもさ、ロルフさんの言う通り、搾った後の奴は皮がすっごくちっちゃくなってるでしょ?
それに実の方も細かい糸みたいになってるから、絡まっちゃっててすっごく取りにくそうなんだよね。
僕ね、これじゃあ皮だけ取るのなんか絶対無理だよねって思うんだ。
「では伯爵。他に成分を変質させて、なおかつ皮だけを取り出す方法があるというのですか?」
バーリマンさんにこう聞かれて、ロルフさんはう〜んって考えこんじゃったんだよ。
でも次の瞬間、ロルフさんは嬉しそうにこう言ったんだ。
「そうじゃ! まずは実だけで酒を造り、それを搾った後で中に細かくした皮を入れて熟成させてみればよいのではないか?」
「ああ、その方法ならば皮だけを取り出すのもたやすいですわね」
お酒の中に後から皮だけ入れて、それを熟成させたら搾った後には皮しか残んないよね?
これだったら今度こそ成功するはずだよって、みんなワクワクしながらやってみたんだけど……。
「ダメじゃ。今回もあまり変質しておらん」
「どうやら実も一緒に熟成させないと、皮の中の成分が上手く変質しないようですわね」
さっきむいただけの皮を熟成した時よりは、今度の方がちょっとだけいっぱい変質してるんだって。
でもこれだったら髪の毛にいい成分が全然足んないから、この皮を使ってお薬を作ってもさっき出来上がったお肌つるつるポーションとほとんど変わんないものしかできないそうなんだ。
「これもダメとなると……ダメじゃ、よい案が浮かばぬ」
「せめて、実の中にあるどの成分が変質にかかわっているのかが解ればどうにかできそうなのですが」
これには二人ともがっかりを通り越してへにょんってなっちゃった。
でもね、僕はさっきバーリマンさんが言ったのを聞いて、なんでかなぁ? って思う事が出て来たんだよ。
だからそれをロルフさんに聞いてみる事にしたんだ。
「ねぇ、ロルフさん。ちょっと聞いていい?」
「ん? 何かな? ルディーン君」
「あのね。ロルフさんは皮の中にあるどれが髪の毛にいいのか知ってるんだよね」
「ああ、その通りじゃが」
「だったらさ、なんでそれを抽出しないの?」
セリアナの油の時みたいにいろんなのがいっぱい混ざりすぎちゃってたり、どれが効果があるものなのか解んなかったら抽出する事はできないかもしれないよ。
でもさ、どれが髪の毛に効くやつなのかをロルフさんは知ってるんだよね?
だったら錬金術の抽出で、それだけ取り出しちゃえばいいのにって僕、思ったんだ。
「必要な成分だけを抽出……なんと、そんな基本的な事すら、わしらは気付かなんだか」
「言われてみれば確かにそうですわね。抽出は錬金術の基礎ともいえる部分だというのに」
ロルフさんたちはね、皮を使わないと絶対に髪の毛用のお薬が作れないって思ってたんだって。
でも前にお肌つるつるポーションを作ってみようって時も、僕が抽出した成分でできたでしょ?
だから今回もきっと、抽出した髪の毛にいい成分を混ぜたら髪の毛用のお薬もできるはずなんだ。
「それでは加えてみるぞ」
さっき作ったお酒はもうビンに詰めちゃったって事で、もういっぺん最初から作ったお酒からロルフさんは髪の毛にいい成分ってのを抽出したんだ。
そしたら細かい粉のお薬みたいになったから、それを温めたお肌のお薬の中に入れて混ぜてったんだよ?
そしたら、あっという間に全部きれいに溶けちゃった。
「見た目はほとんど変化がありませんわね」
「うむ。じゃが、成分はくわえたのだからきっと成功しておるはず」
でね、それが冷めるのを待って、ロルフさんが解析をかけてみたんだよ。
でもね、
「ルディーン君。すまぬが、これを鑑定解析してはもらえぬか?」
何でか知らないけど、ロルフさんは僕に鑑定解析してって。
だからそのお薬に鑑定解析をかけると、傷んでる髪を治してつやつやにしてくれるって出たんだ。
「ロルフさん。ちゃんと髪の毛がつやつやになるって出てるよ」
「そうか。ではその効果はどれほどじゃ? それに発毛の効果は? わしの解析ではそこまで詳しい事は解らなかったのじゃ」
ロルフさんはね、ちゃんと髪の毛がつやつやになるのは解ってたんだって。
でもそれがどれくらいの効果があるか解んなかったから、僕に鑑定解析をして欲しかったみたいなんだよね。
って事で、それを考えながらもういっぺん鑑定解析。
「あのね、僕が作ったのみたいにすぐつやつやになる訳じゃないみたい。でも何日か使ってたらちゃんとつやつやになるって」
「それで発毛は? 毛は生えてくるのか?」
「えっとね、細くなった髪の毛は太くなるみたいだけど、新しいのは生えてこないみたい」
ちょっとでも生えてる人は、ずっと使ってればちゃんとふっさふさになるんだって。
でもね、お爺さん司祭様みたいにつるつるだと、このお薬を使っても生えてこないみたいなんだ。
「そうか。それはちと残念じゃな」
「ですが、伯爵。光明は見えましたわ」
「うむ。先ほどルディーン君が成分を抽出して加えればよいと気付かせてくれたからのぉ。髪の毛をはやす成分さえ発見できれば、より完成品に近づけることができるはずじゃ」
僕の髪の毛つやつやポーションよりも効果はずっと低かったけど、それでも一応髪の毛がつやつやになるお薬はできたでしょ?
だから今はこれで満足しようねって、ロルフさんは顎の長いお髭をなでながらほっほっほって笑ったんだ。
とても難しいと思っていたことが、実は簡単な方法でうまく行くって事、ありますよね。
今回は専門家ほど難しく考えすぎて壁に当たってしまうというお話でした。
さて、これでとりあえず二つのポーションは完成です。
これであと少ししたら村に帰れるかな?
個人的には早く帰ってもらって、この物語のメインヒロインであるスティナちゃんを早く出したいのですがw